無罪となった一事例

無罪となった一事例・目撃供述の信憑性

犯人と被告人との同一性=犯人性立証は,刑事事実認定の要であると考えます。

ごくありふれた窃盗事件ですが,目撃者の犯人識別供述が争われた事案です。
犯人識別供述の信用性を確保するために,通常は,写真台帳(年格好が類似する多数人の顔写真が添付されたもの)を使用するのですが,本件では,直面割りをするなどしたため無罪となった事案です。

なお,判決書は,極めて細かな事実認定をしておりますが,プライバシー保護の見地から結論部分のみ紹介致します。

以下,判決文からの要約引用です。
人の同一性の識別を内容とする供述については, 比較対照という判断作用を伴うことなどから, 不正確な観察や記憶の減退・変容,他からの暗示や誘導等によって容易に誤認するおそれがあるなど,それ自体に内在する固有の危険性がつとに指摘されている。
 したがって, その信用性については慎重に吟味していく必要がある

 警察官は,目撃者に対し,単独面通しに先立ち, 「この間言った犯人を捕まえましたので,本人であるか確認をしてくれ」 などと,目撃者に強烈な暗示,誘導を与えかねない発言をしている。 確かに,目撃者は,面通しに際してはあらかじめ被告人を犯人とは決めつけていなかったとは述べているが, 意識の上はそうであったとしても, 無意識のうちに被告人が犯人に間違いないとの先入観を持った可能性は残るのであり,結局,本件において犯人選別手続が適切になされたとは言い難い。

 目撃者の識別供述には数々の問題点があることからすると,その信用性については,多分に合理的な疑いを容れる余地があるというべきである。
 以上のとおりであり ,被告人を犯人とする目撃者の識別供述をそのまま信用することは困難であり,同供述から被告人を犯人と断定することはできない上, 被害届に記載された犯人の人相,着衣等が被告人のそれと一応符合するとしても,比較的ありふれた容貌, 容姿が符合するにとどまり,これにその余の証拠から認められる事実関係を加味しても, これらはいずれも被告人を犯人と結びつける推認力はほとんどないから, 結局,被告人が本件窃盗事実の犯人であると認めることはできない。
 したがって, 本件窃盗事実については犯罪の証明がないことになるから, 刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
 よって, 主文のとおり判決する。